「ふむ。ちと変わった作りの館じゃのぉ」
お家の近くまで行くと、ロルフさんがこんなこと言ったんだよね。
でも僕、目の前のお家を見てもどこが変なのか解んなかったんだ。
「そうなの?」
「うむ。例えば東門の外にあるわしの別宅じゃが、門がある方が広く、奥行きが狭いじゃろう? じゃがこの館は奥行きの方が長くなっておる」
ロルフさんにそう言われてもういっぺんお家を見てみたんだけど、そしたらほんとにドアがついてる方より奥に向かっての方が長かったんだよ。
「ほんとだ! 入口がある方が短いよ」
「そうじゃろう? 普通、館を作る時は見栄えを考えて横に広く作るか、土地の利用効率を考えて正方形に作るのが普通なのじゃが」
よそのお家に行った時はみんな、入口の方から見るでしょ?
だから普通は横に広くして、ちょっとでもおっきなお家に見えるようにするそうなんだよ。
なのにこのお家は縦に長いもんだから、ロルフさんは変だよねって思ったんだってさ。
「ええ。確かにこの館のような縦長に作られた館は、他ではあまり見る事はないでしょうね。でもこれにはちゃんと理由があるのですよ」
バーリマンさんが言うにはね、それはお家の横にある広い空き地がその理由らしいんだ。
「本来、この館の横には準男爵が立ち上げる商会の建物を作るはずでしたでしょう?」
「おお、なるほど。確かにそちらに別の建物を建てるとなると、こちらを正面にすべきじゃな」
このお家はね、長方形の土地の端っこに建ってるんだ。
だからもしその横におっきな建物を作ったら、このお家の入口がある方が横に長くなるんだよね。
「ええ、そうですわ。商会の建物と館の入口が別の方向にあったらおかしいでしょう? だからこの館は、こちら側に入口が作られているのですわ」
「全体が完成した姿を考えてこのような設計をしたのに、途中で計画がとん挫したからこそこのような館が出来上がったと言う訳か」
バーリマンさんが教えてくれたんだけど、このお家って広い空き地の方にもちっちゃな入口があるんだって。
でね、作るはずだったおっきな建物にもお家がある方にちっちゃな入口を作って、そこをお屋根の付いた通路でつなぐつもりだったらしいんだ。
そしたら雨が降った日でも濡れずに移動できるから、そうするつもりだったんだってさ。
「おっきくてすっごいドアだね」
「うむ。ここだけ見ると、わしの本宅とも遜色ないのぉ」
このお家の入口にはね、木でできた観音開きのおっきなドアが付いてたんだ。
それにね、その表面は前の世界にあったチョコレートってのみたいにデコボコしてて、ふちっこの方には木の蔓や葉っぱの柄まで掘ってあったもんだから、僕、びっくりしちゃったんだ。
「この扉、本来作るはずだった商会と同じデザインになっているそうですわ」
「なるほど。そう考えると、金をかけてこのような装飾にしたのもうなずけるな」
お客さんが来た時、入口が立派だとみんな、ここはお金持ちなんだなぁって思うでしょ?
商会っていろんなものを売るとこだから、お金がいっぱいあるって思ってもらった方がいいんだって。
だからみんな入口にはお金をかけるんだよって、ロルフさんは僕に教えてくれたんだ。
「じゃが館として考えると、入口が立派すぎるのもちと考え物じゃがな」
「そうなの?」
「うむ。招かれたものは、この扉を見て館の中を想像するからのぉ。家格相応の家具や調度品をそろえておったとしても、見劣りしてしまうじゃろうからな」
「そっか。中もきっとすっごいんだよねって、これ見たらみんな思っちゃうもんね」
貴族様のお家なんだから、中もきっと僕んちなんかよりずっとすごいんだと思うんだよ。
でも入口がもっと凄かったら、中を見てこんなのかぁってがっかりしちゃうかもしれないもん。
だからロルフさんは、お家の方があんまりいいドアをつけない方がいいんじゃないかな? って言うんだ。
「大丈夫ですわ。その点もちゃんと考えてあるようですから」
「ふむ。という事は、中の調度品にも気を配っておるのじゃな?」
「ただ、あくまで見える範囲だけですけどね」
バーリマンさんはそう言うと、おっきなドアを開いて中を見せてくれたんだ。
そしたらそこはこのお家の幅いっぱいの広間になってて、下には赤い絨毯が敷いてあったんだよね。
「わぁ! 見てみて、ロルフさん。階段が2個あるよ」
「うむ。確かに、この作りであれば入ってすぐに客が落胆する事は無いじゃろうな」
それにその奥の両側の壁んとこに階段があって、そのふたつが半円を書くみたいになって真ん中でつながると、そこからは一個の広い階段になって2階にあがってけるようになってるんだ。
「何か、物語に出てくるお城の階段みたいだね」
「うむ、そのような視覚効果を狙っておるのじゃろうな。この特殊な形の階段のおかげで、その他の調度品が入り口のドアに比べて多少格落ちしておっても気にはならぬようになっておる」
ロルフさんにそう言われて周りを見てみると、確かに窓とかドアとかは普通のがついてるし、壁についてる魔道ランプも普通の形のが付いてたんだよね。
でも言われるまで気付かなかったんだから、やっぱりあの階段は凄いよねって僕、思うんだ。
「後はですね、この奥にある客を招き入れる部屋のテーブルや椅子、それに壁のレリーフなどにはちゃんとお金が書けてありましたわ」
「なるほど。確かに見えるところにはきちんと気を使っておるのじゃな」
その他にもおトイレとか、このお家に来るお客さんが使うようなとこだけはみんなちゃんとしてるんだって。
でもね、お泊りするような人は仲良しさんだから、そう言う人が使う客間とかお風呂とかはそんなにすごいものは使ってないんだよってバーリマンさんは教えてくれたんだ。
「ふむ。確かに仲の良いものたちにまで見栄を張る必要などないからのぉ」
「ええ。ですがそのようなところも、貴族が快適に過ごせる程度には整えられていますわよ」
元々は準男爵様のお家だから入り口のドアや階段ほどお金はかかってないけど、他んとこも結構いいものを使ってるんだって。
「それに、小さいとはいえ練習するのには不都合が無い程度のダンスホールもありますし、下級貴族の別宅には珍しく魔道具でお湯を沸かすお風呂までありますのよ」
「薪ではなく、魔道具で沸かす風呂とな? それは張り込んでおるのぉ」
「ただ魔道ボイラーではなく魔道コンロのようなものを使った簡易型のようですから、湧くまでには少々時間がかかるようですけどね」
僕の村にあるみんなが入るお風呂は、いっぱいお湯がいるからって魔道ボイラーっているお湯を沸かす魔道具を使ってるんだ。
でもね、これにはとっても大きな火の魔石がいるからとっても高いし、魔道リキッドだっていっぱい使わないとダメなんだよ?
だけどこのお家のお風呂は、ちっちゃな魔道コンロみたいなのでお水を入れてから湧くまでかなり時間がかかっちゃうんだって。
「それにお客様も使うからとトイレは水洗になっていますけど、お風呂は井戸から水を汲み出さなければならないようで、そこは少々不便ですわね」
「この館は土地の中に井戸が複数あると言っておったし、その一つの近くに風呂を作れば、後は使用人に任せればよいと考えたのであろう」
そっか、お水を汲む魔道具なんてあるんだね。
グランリルの村は、中に川が流れてるでしょ?
だからお風呂場はその近くに作って、その川の流れる力を使って無視者と使ってお風呂の水が汲めるようになってるんだ。
でも雨が降った時に使う井戸にはそんなのついてないんだよね。
「ねぇ、バーリマンさん。そのお水を汲む魔道具って、作るの大変なの?」
「いえ、構造自体はそんなに難しいものじゃないわ。でもどうして?」
「あのね、僕んちの近くにある井戸、桶を入れて引っ張って汲まないとダメなんだ。普段は川から汲んでくるから使わないんだけど、雨が降ると使わないとダメだからそれがあったらお母さん喜ぶだろうなぁって思ったんだ」
今はお水を綺麗にする魔道具を作ったから井戸にお水を汲みに行く事はあんまりなくなっちゃったけど、それでも何日か雨が降ったら井戸を使わなきゃダメなんだよね。
だからそのお水を汲む魔道具ってのを作ったら、お母さんはきっとうれしいって思うんだよね。
「なるほどのぉ。ギルマスよ。そう言う事ならば、後で作り方を教えてあげてはどうじゃ?」
「そうですわね。ルディーン君なら、それほど苦労せず作れそうですし」
「教えてくれるの? やったぁ!」
バーリマンさんがお水を汲む魔道具の作り方を教えてくれるって言ったもんだから、僕はその場でぴょんぴょんは跳ねながら両手を上げて大喜びしたんだ。
元準男爵邸の見学が始まりました。
この館、実を言うと下級貴族の別宅としてはかなり豪華な作りになっています。
本編でも書かれている通り普通はお風呂なんてないし、水洗のトイレなんてあるはずないんですよね。
ルディーン君やバーリマンさんは簡単に作ってしまうからあまりそうは思えないかもしれないけど、魔道具って買うとすごく高いんですよ。
なので貴族とは言え、下級だとそれほど多くの魔道具は所持していません。
なにせ国から貰えるお金の殆どは仕えている家臣や使用人の給料に消えてしまうので、平民が思っているほど贅沢ができるわけではないので。